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東京高等裁判所 昭和51年(う)1676号 判決 1976年11月30日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

この裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人中山雄介提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点について

所論は、原判決は被告人が本件後に犯した監禁及び強姦致死罪で有罪判決を受けたことを理由に被告人を実刑に処したが、これは憲法三一条及び三九条に違反しているというのである。

そこで検討すると、原判決が量刑の事情として、被告人は追従的に犯行に関与したもので、その行為は未遂であり、示談も成立しているとしながら、本件犯行の四日後にも三人と共謀のうえ通行中の若い女性を車に連れ込んで監禁、強姦したことで監禁罪及び強姦致傷罪により懲役三年五年間執行猶予の裁判を受けたこと(未確定)も認められるので、被告人を懲役一年六月に処した旨説示していることは、原判決書の記載に徴し明らかであるが、刑事事件の裁判の量刑にあたつては、犯罪の動機、目的、方法、態様等犯罪行為自体に関する事柄のほか、被告人の前歴、性格、傾向といつた被告人本人に関する事情もまた考慮の対象となり、別件を右の情状を知るための一資料として考慮することは必ずしも禁じられていないのであつて、とくに本件のように被告人が数日後に再び同種の行為に及んだという事情は当時の被告人の性格、行状、生活態度等を理解するのに有用であり、原判決は別件を右の趣旨において考慮したものと解されるから、所論の憲法違反はなく、論旨は理由がない。

同第二点について

所論は、原判決の量刑不当を主張するものである。

そこで記録を精査し、当審における事実の取調べの結果をも参酌して検討すると、本件は、被告人がドライブ仲間の丸山栄ほか少年二名とともに、丸山が誘い出した高校一年の少女をカーテルに誘い入れ、同女に肉体関係を拒絶されるや意思を相通じたうえ同女を強姦した事案で、犯行の動機、態様に照らし犯情は良くないし、当時暴走族の一員となりシンナーを吸引したりしていた生活態度を併せ考えると、被告人の刑責は軽くなく、原判決が被告人を懲役一年六月の実刑に処したのも理由がなくはない。

しかしながら、本件の事案をさらにみてみると、被害者は早くから性経験を有する女性で、被告人らと同様シンナー遊びもし、素行必らずしも良いとはいえないし、男性四人とカーテルに入るなど被害者にも相当落度があると認められること、原判決も認めているように本件の主謀者は丸山であり、被告人自身も丸山に次いで姦淫を試みているが未遂に終つており、丸山に対しては刑の執行を猶予する判決がなされていること、共犯者とともに被害者に対し合計一一〇万円を支払つて示談を整え、その宥恕を得ていること、被告人には前述の有罪判決以外には前科、前歴はなく、本件後姉の夫のもとで電気工としてまじめに働き更生の意欲が顕著であることその他被告人の年齢、家族関係等所論が指摘する被告人に有利な事情を考慮すると、被告人に対しては刑の執行を猶予し、その自戒と反省に期待するのが相当であると判断される。それ故、論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に則り自判する。

原判決が確定した事実に原判決摘示の法令を適用し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予し、主文のとおり判決をする。

(寺尾正二 山本卓 田尾健二郎)

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